解決事例①(遺言作成)

 

同一の遺言者について,受遺者が死亡するなどしたことから,11年前に作成した遺言を破棄し,新しい遺言書の作成を依頼されました。

11年の時の経過があったことから,遺言者の身の回りの世話をする者が遺言者の弟から甥に変り,祭祀用財産を承継し,祭祀の主催者としては高齢となってきた弟よりも甥の方がふさわしいと思われました。また,遺言者の財産にも11年という時の経過によりかなりの変動が生じていました。

そこで,遺言者とその弟から十分に現在の状況を聴取し,併せて遺言者の希望を確認しました。遺言者からは相続分の指定の希望がありましたが,遺言者が亡くなった後の遺産の配分が複雑になり,紛争が生じる余地があることから最終的には,現状の財産の減少等も考慮し,遺言者の弟と一人の甥には預金の中から定額の現金を取得できるようにし,その余はすべて身の回りの世話をしてくれている甥に相続させることとして,公正証書遺言を作成しました。

なお,遺言書中には,遺言執行者の定めを置き,同執行者の報酬額も遺言書中に定めました。

上記は,平成18年の信託法改正前の事案であるため,家族信託を利用することができませんでしたが,高齢化が進んでいる今,認知症対策として,次のような民事信託が考えられます。

 <家族信託を利用した場合の解決方法>

遺言者である相談者を委託者兼当初受益者とし,委託者の身の回りの世話をしている甥を受託者兼二次受益者とする家族信託契約を締結します。

これにより,甥が相談者のお金を使って従前どおりの身の回りの世話をすることができるとともに,委託者が亡くなれば信託契約に従って残った財産を被相続人の弟や甥らに割合を定めて相続させることも可能となります。したがって,信託の形をとれば,実質的には相続分の指定と同様の結果が得られ,相談者の希望を叶えることができます。また,遺言であれば相談者の死亡後に遺言執行が開始され,相続の費用が相続人の負担となって相続税から控除できないのに対し,家族信託契約の場合,契約にかかる費用などは相談者が負担することになるため,結果的に将来の相続財産から支出されるので,事実上の経費化が可能となります。