遺言と家族信託と後見の違い
遺言は,法定相続分と異なる財産分配を行うことを可能にするものです。自分の希望どおりに財産を承継させる方法としてまず思い浮かぶのが遺言だと思います。
しかし,たとえば「自分が死んだら長男に財産を相続させ,その後長男が死んだら孫に相続させたい」という希望を持ったとき,遺言ではこの希望を叶えることはできません。
二世代以上先の財産の行方を指定する遺言は無効となります。財産を誰に相続させるかは財産を取得した長男自身が決めることだからです。このように遺言では,遺言者の希望を叶えられない場合があります。
成年後見人とは,精神的な障がいや認知症などで判断能力がなくなった人に代わって様々な手続きを行う人のことを言います。成年後見人は家庭裁判所が選任します。成年後見人となるために資格は不要ですが,近くに家族がいない場合や家族が多額の借金を抱えている場合,親族間でトラブルがある場合,家族は成年後見人にはなれません。その場合は,弁護士や司法書士,社会福祉士などの専門職が選ばれることが多いです。
自分が決めた人に後見人をお願いしたい場合,公証役場で任意後見契約をすることもできます。もっとも,任意後見の場合は任意後見人の仕事をチェックする任意後見監督人が家庭裁判所によって選任されます。任意後見監督人は任意後見人の仕事をチェックする人のため,親族ではなく専門職が選ばれることが多いと言えます。
成年後見人や任意後見人は本人に代わって契約や預貯金の管理,年金の手続きなどの様々な手続きを行うことができますが,不動産の売却や株を買って財産を運用するといった本人にリスクを負わせるような行為は許されません。成年後見を利用したときから,本人の財産は,極めて消極的に維持することしかできなくなるのです。
どうしても自宅の売却など不動産を処分したい場合は家庭裁判所の許可が必要です。そして,家庭裁判所の許可も,「自宅の維持管理が大変」や「固定資産税を払いたくない」などの理由ではなかなか認められません。任意後見の場合は任意後見人の権限に自宅の売却も含めることができるためそのような制限はありませんが,任意後見監督人が成年後見の場合と同様に,売却にストップをかけることが考えられ,スムーズに手続きを進められるかは不確実です。
家族信託とは,自分(委託者)の財産を家族等(受託者)に託し,特定の人(受益者)のためにあらかじめ定めた目的にしたがって管理・処分をしてもらう 財産管理・財産承継の手法です。家族信託では,遺言と異なり,二代先まで指定して財産を引き継ぐことができます。
また,遺言の場合はあとから作成したものが優先され,被相続人となる人の気持ち次第で更新されうるものですが,信託の場合は,契約なので,契約の変更が可能な場合(当事者の合意がある場合)のみ変更されることになります。そして,成年後見は本人の判断能力が衰える前に財産の管理はできませんが,家族信託なら判断能力があるうちから信頼できる家族等に財産管理を任せることができます。
さらに成年後見と違って裁判所を通さずに行うことができ不動産の売却をはじめとした成年後見に付された制限はありません。信託をすると,不動産の名義は受託者に変更され,受託者の判断で不動産の売却を行うことができ,手続きも受託者が当事者となって行うことができます。
さらに,成年後見制度を利用した場合「被後見人の利益にならないこと」はできないため,基本的に相続人のための行為である相続税対策はできません。しかし信託を利用することで,受託者の権限による継続的な財産管理が可能になるため,相続税対策を継続していくことができます。